読了/インターネットを探して

インターネットを探して

インターネットを探して

コンピュータの人類への最大の貢献は、疑問の余地無く、異なる場所にいる人々をつなげられる能力だ。たぶん、歴史上のどのテクノロジーよりも、インターネットは距離を問題ではなくした――ことわざにあるとおり、世界を小さくしたのだ。

「インターネット」とは何か…その「実体」は何か? というテーマのノンフィクション。既に世界中に広がり、あることが当たり前になってしまって多くの人にとっては概念上の存在になってしまったであろう「インターネット」の実体、ネットワークとしての物理的、地理的、社会的な側面について取り上げてあります。インターネット「地図」にはじまり、最初のインターネットを作った機器、北米及びヨーロッパの主要なインターネットエクスチェンジの成立と発展、海底ケーブルと陸揚げ局、巨大なストレージとしてのデータセンター……。それらを実際に訪問して「インターネットを見た」上で語られるインターネットの成り立ち――地理学的な問題や不動産的な観点も。

物理的構造物としてのインターネットのビジョンとそれを支える人たち。「距離を問題でなくす」ために彼らがどんなものを作り上げてきたのか? 「世界が小さく」なった背景にはどんな構造物が存在しているのか? って話です。世界を小さくするためには世界規模の構造物が必要なんだよね。海底ケーブルに感じるわくわく感とかそこなんだよな。ミクロン単位の光ファイバの逆側は海を一万キロ以上渡ってとなりの大陸に出ています、このほっそいファイバの中を毎秒テラバイト単位でデータが流れます、とか下手するとファンタジーの域じゃないか?

単純にそれを「見る」ことができたっていうのがうらやましいなと思ってしまうね…。俺も見てみたいなあ、と。まあ仕事でその末端あたりを見ているといえば見ているんだけど。一応、曲がりなりにも、ネットワークをやってる人間としては、こういう本当の意味での中核をなすネットワークというものに憧れるよねえ…。そういう仕事してみたいなー。

内容としては普通のノンフィクションなので、特に技術的バックグラウンドがなくても読めるといえば読めます。インターネットの使われ方とか発展の歴史ってすごく人間くさくってドラマチックだしね。ただ、技術的バックグラウンドを知っている方が圧倒的に面白いでしょう(言うまでも無いけど)。技術の発達に従って何がどう変わってきたのかっていうとこがすごく面白いのよ。その両側面から読める人にはとても良い本でしょう。論理的な構造としてのインターネットについてはこっちの本がおすすめです。

インターネットのカタチ―もろさが織り成す粘り強い世界―

インターネットのカタチ―もろさが織り成す粘り強い世界―

合わせて読むとなおよろしい。というかこの本を買った後で「合わせておすすめ」されたような記憶があるがどっちだったか。

ネットワークってとにかく実体が見えにくいというかつかみにくいというか。まあ極端な話、よくわからないややこしいルールに従ってバイナリが流れてるだけに見えてしまっていてもおかしくない…というかそう見えてるのだと思われるので、ネットワークに興味を持つ人ってのがすごく少ないですよね。学生さんとかの対応しててもホント思うんだけどさ。ネットワークの話してもぽかーんだったり。そりゃ何がどう動いているのかが目で見えるもの……日常生活で見えていてイメージのつかみやすいアプリケーションよりの話に興味が向くのは仕方ないよな、と思ったり。でもそういうものもすべてネットワークの上で成り立ってるっていうのは知っておいて欲しいなーと。せめて。できればそういうところにもちょっと興味を持ってもらえるといいんじゃないかなーと学生対応やるときなんかには考えたりするわけですね。(おまえが偉そうなという声が聞こえてきそうではあるけど。)

あ、あと、特に声を大にして言っておきたいのは、ネットワークがつながるのは当たり前などではないってことです。当然なんだけど、つなげようとするからはじめてつながるんだよね。世界規模でネットワークをつなぐためにどれだけの物事があったのか、とか。その辺をね。考えるのが良いのではないかと思いますね。(誰に対して言っているのか

ネットワークのおもしろさって、自律分散制御とかデータ処理とか学術よりの話ももちろんあるけど、もうちょっとメタにみると人間の動き・人間関係が効いてくるってところもあると思うんだよね。結局ネットワークって人と人、人とシステムを結ぶものだしね。必ずしも技術ベースの合理性だけで物事が決まるんじゃなくて、むしろ地域的・社会的な特徴や歴史的経緯やら何やらとか、そういうのに左右される。そういう「ややこしさ」が実は面白いんだよな…なんてことを読みながら考えたりしました。